課題曲ワンポイントアドバイスとして佼成ウインドのメールマガジンに掲載した文章です(小林恵子)
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[I] 迷走するサラバンド
テナー・バリトンサックスの実音Dから始まり、いろいろな場面を模索するも、結局のところ半音下がって(ピッコロの実音Cis)消えていく・・・と、まさに迷走曲。
このD音からCis音までの1本の迷走道路を構成するためには、場面ごとのキャラクターも大切ですが、場面転換する部分(練習記号の“前後”、もしくは、楽語が表記されている“前後”)がとてもとても重要。その部分は、合奏の中でrit.やaccel.することばかりに気をとられず、特に丁寧に演奏するように心がけましょう。
あとは、パート譜に沢山あるクレッシェンドの扱い方。この曲だけに限りませんが、クレッシェンドは後半にググッと音量を上げる方が効果的ですが、どうしてもクレッシェンドを見た途端すぐに大きくしてしまいがちです。そして、この曲には、連続してクレッシェンドが書かれている箇所も多いので、周りにつられてつい大きくなり、全体が常にボリューム大の状態になりがちですので、ぜひ再確認してみて下さい。音量も、ここぞというところまでは抑制されている方が、この曲の迷走する緊張感が保たれると思います。
指揮者は、この曲のいいプロポーションをつくることが重要です。(他の曲も勿論そうではありますが。)先述の場面転換の部分の構成力は、指揮者にかかってきます。そして、Fからの部分の自然なアゴーギク、Jからアゴーギクで音楽を前に運んで緊張感をつくることも大事ですので、がんばってくださいね!
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[II] オーディナリー・マーチ
実は、このマーチについて質問されることが一番多いのですが、その質問のほとんどが、テンポ設定について。二分の二拍子でこのテンポ表記に、まだピタッとはまらない楽団も多いのではないでしょうか。最終的に、自分達がイメージするニュアンスが表現できる、自分達のベストなテンポで演奏することが、最大のポイントになるでしょう。
世界中に様々な言語があるように、マーチといっても沢山の種類があります。作曲者の高橋さんの「ドイツマーチのイメージ」という言葉を拝借すれば、例えば、マーチのイメージを膨らませるには、タイケ作曲「旧友」を、音色感(第一マーチの調性感)のイメージを膨らませるには、ベートーヴェン作曲「交響曲第三番“英雄”」か「ピアノ協奏曲第五番“皇帝”」の冒頭を、それぞれ聴くだけでも何かヒントになるかもしれません。
ただ単に重く演奏する、というだけでは音楽が停滞してしまうので、その中で音楽の推進力ももちろん必要です。かといって、音楽を前に進ませることだけに捉われると、音そのものが鳴りません。指揮者は、そのいいバランスを見極めることが、非常に大切な役割になります。
奏者の皆さんは、最終的にどのテンポで演奏するにせよ、音の軽重さにかかわらず、全部の音に対し、子音をハッキリさせて、母音をちゃんと鳴らすことには変わりありません。一音、一音、特に八分音符や裏拍にあたる音は、この時期にもう一度、個人練習やセクション練習で、ゆっくり丁寧に音作りしてみたらどうでしょうか!
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III 吹奏楽のための民謡「うちなーのてぃだ」
ゆったりと、てぃんさぐぬ花の旋律から流れ、そして[A]から沖縄の明るい音楽がスタートするわけですが、なんといってもポイントは、Allegro Vivaceのテンポ感・リズム感を統一させることです。合奏中、聴けば聴くほど、周りに合わせようとすればするほど、音楽の推進力が無くなり、テンポが停滞してしまった、という経験をされた楽団もあるのではないでしょうか。
この3/4+2/4拍子ですが、「付点四分音符+付点四分音符+四分音符+四分音符」という変則4拍子でとるとどうでしょう。イメージとしては、スパイ大作戦のテーマ、ウエストサイドストーリーのアメリカ(こちらは変則5拍子にですが)と同じ感覚です。スパイ大作戦のバスのリズムの感覚でこの曲を演奏すると、心地よいテンポが生まれると思います。ただし、くれぐれも滑りすぎには注意してみて下さい。
変則4拍子だとリズムが混乱してしまうという場合は、もちろん5拍子でいいのですが、3拍目と4拍目の間、もしくは5拍目と次の1拍目の間が延びないように、そして、4・5拍目が重く(遅く)ならないように、注意してみてください。
テンポ感が決まれば、あとは、その中で、各ソリがいかにカッコよく聴かせられるか。ソリごとに順番にスポットライトが当たっていくかのようなこの曲、ぜひ楽器ごと(セクションごと)に決めちゃって下さい。
指揮者は、アーティキュレーション(音の処理)が統一されているか、チェックを忘れずに!
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IV 汐風のマーチ
まず指揮者側の話になりますが、「4/4だけど、2拍子で振ってもいいのですか?」という質問を何人かの方から伺いました。この速度だと、手(指揮)の都合上も、頭の中の感覚も、4拍子で感じたほうがいいのか、2拍子で感じたほうがいいのか、ちょうど境目にあたる方が多いと思います。なので、振り方も、頭の中の感覚も、固執せずに、自分(指揮者)対楽団で、いちばん音楽が流れるいい加減を見つけてみて下さい。
この速度でAllegroの心地よい音楽の流れをつくろうとすると、ただ単にアクセルを踏みっぱなしになりがちですが、アクセルを踏んで進んだら(緊張)、フレーズの終わりはニュートラル(弛緩)にしなければなりません。どの曲でもそうですが、この音楽の緊張・弛緩の感覚こそ大切で、その踏みかえるタイミングは、和声と関連されています。大まかで十分なので、ぜひ、和声を取り出してやってみて下さい。意外と、同じハーモニーが長く続く部分が多く、同じハーモニーが続くときは、ひとかたまりで感じると、テンポ自体も 見つかると思いますし、そこに乗っかって旋律を演奏すると軽さも生まれてきます。軽い音楽でない部分には、全てアクセントが書いてあるので、パート譜のアクセント記号は大ヒントになると思います。そして、和声が複雑な部分やころころ変わるところが、この曲の中のクライマックスで、聴かせどころにな ります。
こうやって活字にすると難しくなってしまいますが、和声を感じることは、奏者にとっても大切な要素の1つ。わかりやすい和声なので、絶対に大丈夫です、ぜひ、爽やかなマーチを奏でて下さい。
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V 吹奏楽のためのスケルツォ 第2番《夏》
変拍子だし、カオスの部分は自分の音もよくわからないし・・・と、きっと謎だらけ練習がスタートしたと思いますが、少しやっていくと、あれ、意外とスッキリ?!という印象に変わった方も多いと思います。
変拍子の部分は、拍にとらわれ過ぎると、なかなか身体にもリズムが入ってきませんが、フレーズだけに着目して演奏すると、変拍子ということを忘れてしまうくらいの感覚になります。クレッシェンド・デクレッシェンドとアクセントをヒントにフレーズがみえると思うので、とにかく横に音楽をとらえてみて下さい。それぞれのフレーズの重心がみえると、本当にスッキリ、演奏しやすいと思います。
その中でイレギュラーなモティーフ、冒頭からの中低音や、[3]の前や[16]のアクセントの連打などが、タイミングよく演奏されると、いいスパイスになり、面白い音楽につながると思います。
指揮者も奏者同様、フレーズを指揮することが大切です。流れを大切に、全部の拍を同じ強さで叩かないように注意して下さい。リズムパターンで特に気をつけなければならないのは、ここでは最初の小節を3+2として表記するとして、3が連続する部分(例・[8]の前)、3の連続と3に挟まれる2(例・[2]の3小節目)でしょうか。
最後に、あえて書く話でもないですが、何団体か演奏を聴かせていただく機会があり、いろいろな風鈴にも出会えたのですが、テューバのソロのお膳立てをするステキな風鈴の音色、奏でる前に音が鳴らないように、くれぐれも注意を払って下さいね! |