もちろん楽しいから演奏する

でも大学では楽しさを与える立場からの
 演奏を学ぼう
               前田昌宏
トマジ作曲「バラード」に添えられた詩について
ARGUMENT

Sur un vieux thème anglais, long, maigre et flegmatique
Comme lui,
Un clown raconte son histoire spleenétique
A la nuit ;

L'ombre de son destin, le long des quais, zigzague,
Et le goût
De mégot qu'en sa bouche ont pris de vieilles blagues
Le rend fou...

Fuir son habit trop large et sa chair monotone
En n'étant,
Entre la joie et la douleur, qu'un saxophone
Hésitant !

Son désespoir au fond d'une mare sonore,
Coule à pic,
Et le clown se résigne à faire rire encore
Le public !
S. Malard
 ARGUMENT(要旨)と題され、この曲のあらすじを語る詩が、楽譜の冒頭に添えられています。作者はS.Malardと記されていますが、トマジの妻、Suzanne Malard スザンヌ・マラールのことです。
 詩は長い行と短い行に分かれ、それぞれの語尾が脚韻を踏んでいることに注意しましょう。さてその意味ですが文それぞれにに多くの暗示が含まれ、ここでは原文を味わっていただく手助けとしての大意をメモしておきます。
これらの解釈には右のお二方のアドバイスを頂き、錫村寛海様から校訂を頂きました。
この詩の朗読をお二方にお願いし録音させていただきました。フランス語の響き、イントネーションを鑑賞して下さい。
■指揮者、そして私の恩師
 イヴ・キャロル先生による朗読
(MP3ファイル約1MB)
■ヴォーカリスト、ミシェル・ミチナさんによる朗読
(MP3ファイル約1MB)
 
要旨(大意)

その男のように、長く,細く、物静かな古い英国のメロディ(1)に乗り、
一人の道化師が、夜、憂鬱な話を語る

曲がりくねった(2)川岸のような、運命の蔭、
そして古い、ありふれた冗談の数々が口をついて出た時の吸い殻の味(3)、
それは彼を狂わせる

だぶだぶの衣装と平板な肌からの逃避、
喜びと苦しみの間を、サクソフォンは戸惑うだけ(4)

その響きの海の奥底で彼の絶望は、ふっと流れ去り
道化師はまた渋々観客を笑わせる(5)
 
 
詩は道化師の内面に持つ葛藤を物語っています。
(1)メロディ:themeは曲の主題、冒頭のイングリッシュホルンで始まり、練習番号2に続くサクソフォンのフレーズを指すものと思われます[譜例1]。→「道化師」をネットで調べる
[譜例1]
(2)練習番号4からのフレーズにその憂鬱さや過去の曲がりくねった運命の影が見て取れます[譜例2]。
[譜例2]
(3)原文にあるblagues →画像をネット検索する
(4)練習番号24からは冒頭(練習番号2)に現れる主題が変形され、道化師の憂鬱で投げやりな気持ちが見て取れます[譜例3]。原文のsa chair monotone「平板な肌」は道化師のメイクを指すものと思われます。立体感のないメイクは心情にかかわらず道化師の顔をいつも滑稽にします。 →「道化師のメイク」をネット検索する
[譜例3]
(5)Tempo di blues と記された練習番号28以後カデンツァを挟む練習番号32までは、その苦悩と嘆き、重々しい足取りと次第に自らを取り戻そうとする気持ちが表されています[譜例4]。またこの後は自らの運命に従い再び舞台へと立ち向かう様子が表されています。
[譜例4]